「最初はいやでいやでね」
真砂で散髪屋を五十七年営んでいる柳井恵子さん。
両親が突然決めてきた閉店予定の散髪屋で働くこととなった。
縁もゆかりもない土地で散髪屋を営業し始めた日から、多くのお客さんがやって来た。
盆も正月も休めなかった。
真砂の人は、畑や田んぼを持っていない柳井さんに米や野菜の差し入れをしてくれた。
「散髪屋一本できたけ、なんもなかったのよ」
散髪屋で働くことになってから三十一年が過ぎた時、真砂の土地を買い、自分の散髪屋を開こうと決意した。
今ではお客さんのほとんどが年配の方となった。
わざわざお店を訪れるのは大変だからと、道具を背負って出張に行く。